構内請負工活用が活発化してきている背景として、わが国製造業を取り巻く経営環境にいくつかの構造的な変化がおきている点も無視できない。
なかでも製品サイクルの短期化、その結果としての“TimetoMarket戦略(=開発リードタイムや生産リードタイム短縮)の重要'性急増、製品モジユラー化傾向の急激な進展といった構造的な要因のインパクトは相当に大きいと思われる。
実際、製品サイクノレの短期化は、研究開発投資コストやリスクを増大させることを通じて、企業のコスト削減意欲を増大させる。
とくに、イノベーション(=経済的な成功を目指す革新的な活動)が生み出される事前確率にあまり影響を与えない部門ほど、このようなコスト削減対象になりやすい。
例えば、生産・製品技術的にみて確立された(あるいは枯れた)製品の生産部門などは格好の標的なはずである。
事実、第1節の事例にみられるように、この種の職場においては、構内請負工のなかでもほとんど問題解決的なことを担当しない(日系ブラジル人に代表される)単純工たちが数多く雇用されていることが少なくない。
また、“TimetoMarket”が重要な経営戦略上の課題となってくると、BaldwinandClark(2000)の言う“モジユラー化の威力(PowerofModularity)が効果的に発揮される可能性を相当に高める。
みずからの製品を最適なモジユラー・デザインに対応した構造にすれば、それらを構成する基幹ユニット間のインターフェースのオープン化戦略によって、新しいモジユラークラスター(=一群の新企業とそれらが対時する新市場)を生み出すことができ、その結果、事業リスクを分散させることができるだけでなく、イノベーション・スピードをより加速できるようになる。
ただし、この種の要因は、企業組織間の水平分業化傾向を不可避的に加速する。
その結果、生産部門の本体からの分離・独立化傾向やEMS(ElectronicsManufacturingServices)などからの外部調達傾向を増大させることになる。
自社生産部門の一部を構内請負化する方策も、労務提供中心という特徴を別とすれば、そのような傾向の延長線上にあると考えられる。
ただし、このようなかたちで構内請負化が行なわれる場合、構内請負工にもある程度までの問題解決型熟練が必要となることが予想される。
というのは、実質上も特定のラインあるいはサブラインー式を請負うという形態が出てくるカユらである。
本章の主要な目的は、以上のようなさまざまな要因によって需要が増大している構内請負工の活用実態を分析することである。
より具体的には、まず、第1節において、電機連合傘下の2社に関する詳細な聞き取り調査にもとづき、構内請負工の活用状況や活用理由などについて分析・検討する。
得られたインスプリケーションの妥当性を確認するため、電機連合(2001)調査にもとづく統計学的な分析を行なう。
加えて、この節では、構内請負工導入への労働組合の関与度といった同調査に特有のいくつかの調査項目を利用して、構内請負工導入要因に関する追加的な仮説の妥当性を検討する。
構内請負工に短期的・長期的に依存することのコストベネフイットについて、主に各社が行なうイノベーション活動へのインパクトという視点から整理。
検討する。
A社は、音響機器などで有名なG社の100%子会社である。
設立後20年ほど経っている。
同社の売上げは、大きくは半導体(主体はカスタムIC)、VDおよびCD−ROM)ディスク、(DVDおよびCD)ディスク製造装置に分けられる。
調査時点でのこれらの三部門の売上比率は、3:4:3ということであった。
なお、第三者的な視点からすると、CD−ROMをあえて日本で製造しなければならない必然'性について疑問が残るかもしれない。
この点に関しては、DVDやCDのROMの受注から納期までの期間が1週間と非常にタイトであるという事情を勘案すると納得できる。
事実、これほどタイトであると、海外で作っている余裕がほとんどなくなってしまう。
もちろん空輸という手段が考えられるが、薄利なために、空輸していてはとても採算が合わないということであった。
これに対し、CD−Rは、製品の特'性上、納期が長く作りだめができるため、コストがもっとも安い地域で生産が可能という。
平成不況下、他の多くの音響機器メーカーがそうであるように、A社においても、高卒の新規採用が1990年代後半はずっとストップしている。
また、同じ期間、大卒・短大新卒者の採用も数人規模であり、2000年度はゼロということであった。
さらに、今後、とくにディスク事業については、当面正社員比率を増大させる計画はないという。
かわりに、製造現場の構内請負工化を積極的にすすめていくということであった。
このような人事戦略を反映し、A社では、設立時に大量採用された30代後半層の正社員がかなり多くなっていた。
また、A社の親会社であるG社からの出向者比率がかなり高く、正社員の3分の1が同出向者であるということであった。
彼らのほとんどが、非製造部門に配属されている。
A社において構内請負工が急激に増えてきたのは、1999年秋に100名を上回る早期退職者が出て以来であるという。
実際、A社には、570名の正社員に加えて100名ほどの構内請負工が働いていた。
一方、パートタイマーは、調査当時(2000年5月)、わずか5名という少なさであった。
なお、A社内の各部門で雇用されている構内請負工や派遣社員の数は、すべて人事部門で正確に把握されていた。
A社の業務は、前述のように、半導体部門とディスク部門(=ディスク製造部門十ディスク製造装置部門)とに大別される。
デイスク部門では、主にDVDやCDが生産されている。
構内請負工が多用されているのはディスク部門中のディスク製造部門であり、同生産労働者の50%程度を占めている。
同製造部分は、さらに細かく分けると、スタンパーと呼ばれる原盤を製造する部門と、それらを使用してDVDやCDを大量に商用生産する部門からなっている。
原盤製造部門では、かなり高度なスキルを要するということで構内請負工は約10%を占めるにすぎない。
一方、要求スキルレベルが相対的に低い後者の大量生産部門では、約52%が構内請負工で占められている。
なお、上記大量生産部門でも、7年くらい前までは、パートタイマーなどの直庸者が主体であったという。
そして、その当時のほうが、むしろ相対的に作業がより単純であったということである。
このような意味では、構内請負工は、パートタイマーや前述の早期退職社員を置き換えるようなかたちで雇用されているといえる。
実際、調査時点で使用されていた製造装置は、以前の高いスキルをもつ正社員の存在を前提にして作られているため、構内請負工導入の当初には、生産にかなりの混乱がみられたということであった。
ただし、今後は、構内請負工の雇用を前提としたかたちで製造装置が作られていく可能性が高い。
このことは、さらに正社員への需要を減退させると思われる。
構内請負工と期間工・契約社員とを比べた場合、前者の定着率のほうが低い。
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